ASEANで進む「選択的な採用」 2026年、シンガポール企業が考えるべき人材戦略とは

こんにちは。
リーラコーエンシンガポール マーケティング担当の野上です。
ASEANでは現在、企業の成長に向けた投資や事業拡大が続いています。
一方で、その成長が必ずしも大規模な採用拡大につながっているわけではありません。
こうしたASEANにおける企業の最新動向を把握するため、この度当グループでは楽天インサイト様と共同で「The Great Restructuring: ASEAN Consumer & Business Pulse Survey 2026」を実施しました。
本調査では、企業の景況感、投資方針、採用計画、消費者心理、キャリアに対する意識などを調査しました。
ここから見えてきたのは、ASEANでは「成長=人員拡大」という従来型の構図から、より選択的かつ戦略的な成長モデルへの変化という点です。
こうした環境の中で、2026年にシンガポールで事業を展開する企業は、どのように採用・人材戦略を考えていくべきなのでしょうか。
本記事では、今回のASEAN 6カ国の調査結果を紐解きながら、シンガポールで事業を展開する企業が今後の採用・人材戦略を考えるうえで押さえておきたいポイントについて解説いたします。
【目次】
1. 調査概要と主なポイント
2. ASEANのビジネス・採用動向
3. 成長と採用は連動しなくなっている
4. 業務効率化が地域共通の優先事項に
5. テクノロジーへの関心が際立つシンガポール
6. 事業拡大先としてのシンガポールと人材市場への影響
7. 「ASEAN採用戦略」だけでは不十分な理由
8. 2026年、シンガポール企業が取り組みたい5つの人材戦略
9. より大きな変化:成長には、これまで以上の精度が求められる
1. 調査概要
「The Great Restructuring」は、当グループと楽天インサイト様が実施したASEAN 6カ国を対象とする調査です。
シンガポール、マレーシア、ベトナム、インドネシア、タイ、フィリピンの6カ国から、消費者および企業経営層3,630人が回答しています。
本記事では、その中でも地域全体の企業動向がシンガポールの企業にとって何を意味するのかに焦点を当てています。
記事内では、調査で実際に測定された結果と、そこから考えられる人材戦略上の示唆を区別しています。
調査結果から実務上の示唆へと移る部分については、弊社の見解としてご紹介いたします。
主なポイント
・調査対象となった6カ国すべてで「選択的な採用」が最も一般的な人材戦略となっており、その割合は32~47%
・積極的な人員拡大を行う企業は7~16%と市場によって差があるものの限定的
・「業務効率化」はすべての市場で最も多く挙げられた成長機会で、その割合は35~43%
・「テクノロジー・AI」は6カ国すべてで成長機会の上位3項目に入り、その割合は24~33%
・シンガポールでは、企業の事業への前向きな見通しが39%である一方、AI・テクノロジーを成長機会として挙げる企業は33%と6カ国中最多
・シンガポールは、調査対象となった6カ国のうち5カ国の企業から、事業拡大先として上位2位以内に挙げられており、特定の人材に対する競争がさらに激しくなる可能性がある
2. ASEANのビジネス・採用動向

3. 成長と採用は連動しなくなっている
今回の調査で最も明確に表れているのが、企業の成長に対する考え方と人員拡大との間に生じているギャップです。
調査対象となった6カ国すべてで、「選択的な採用」が最も一般的な人材戦略となっており、その割合は32~47%でした。
一方、「積極的な人員拡大」は7~16%にとどまっています。
この違いは重要で、調査結果はASEAN企業が成長や投資を止めていることを示しているわけではありません。
むしろ、企業は業務効率化やテクノロジーなど複数の手段を組み合わせながら成長を目指しています。
つまり、企業の業績見通しが前向きだからといってそれに比例して人員が増えるとは限らないということになります。
シンガポールでビジネスを行う企業様にとっても、この地域全体の傾向は重要な意味を持ちます。
新しいポジションの承認プロセスが以前より慎重になっているからといって、それを必ずしも市場の低迷と捉える必要はないということです。
今回の調査では、企業の事業への見通しや成長状況が異なる市場においても、同様の傾向が確認されています。
4.業務効率化が地域共通の優先事項に
「業務効率化 (Operational efficiency) 」は、調査対象となったすべてのASEAN市場で最も多く挙げられた成長機会であり、その割合は35~43%でした。
今回の調査は、すべての企業が実際にどの程度の投資をどの分野に配分しているかを直接測定したものではないものの、この結果は採用を続ける中でも、業務効率化が地域全体の成長における中心的なテーマとなっていることを読み取ることができます。
今後の人員計画では、「どのような能力を新たに加えるのか」「どのようなビジネス上の課題を解決するのか」「既存の業務プロセスやテクノロジーとどのように組み合わせるのか」を明確に説明することがより重要になるでしょう。
人員増加は、成長に対する唯一の答えではなくより広い生産性向上戦略の一つの要素として捉える必要があります。
5. テクノロジーへの関心が際立つシンガポール
シンガポールでは、AI・テクノロジーを成長機会として挙げた企業の割合が33%と6カ国で最も高くなっています。
6カ国全体では24~33%の範囲でした。
一方、シンガポールのビジネス・コンフィデンスは39%で、6カ国の中で最も慎重な水準となっています。
ただし、今回の調査からこの2つの数値に因果関係があると判断することはできません。
「ビジネス・コンフィデンスが低いことが、AI・テクノロジーへの投資を促している」と結論づけることはできない一方で、この2つの数字の組み合わせからは、全体として慎重な事業環境であっても、特定の成長手段については強い関心が持たれていることが分かります。
企業にとっては、テクノロジーに関する能力をIT部門だけの問題として捉えないことが重要です。
AIやテクノロジーが企業の成長戦略の一部となるのであれば、人材計画においても、どのポジションに新たなデジタルスキルが必要なのか、どの業務プロセスを見直すべきなのか、新しいツールと効果的に協働するために既存社員にどのようなスキルが必要なのか、といった点を考える必要があります。
6. 事業拡大先としてのシンガポールと人材市場への影響
今回の調査では、シンガポールは地域の中でも特徴的な位置づけとなっています。
調査対象となった6カ国のうち、5カ国の企業がシンガポールを事業拡大先として上位2位以内に挙げています。
シンガポールを拡大先として挙げた企業すべてが実際にシンガポールへ進出する予定があることが前提ではありませんが、シンガポールが地域の事業拡大計画において、引き続き重要な位置を占めていることを示す一つの方向性として捉えることができます。
また、すでにシンガポールで事業を展開している企業様にとっては、これが人材計画上の重要なポイントとなります。
企業全体の採用が選択的であったとしても、特定の人材層をめぐる競争が強まる可能性があるためです。
特に、リージョナル機能を担う人材、テクノロジー人材、専門性の高い人材、複数市場を横断して業務を担える人材などについては採用競争が強まることも考えられます。
今回の調査で直接確認された内容ではありませんが、弊社ではシンガポールの地域拠点としての役割や事業拡大の動向を踏まえ、こうした人材への需要は今後も注視していく必要があると捉えています。
7.「ASEAN採用戦略」だけでは不十分な理由
今回調査を実施した6つの市場は、すべてが同じ状況にあるわけではありません。
例えば、企業の事業への前向きな見通し は39~66%、採用拡大は7~16%、投資拡大は16~28%と、市場によって違いが見られます。
また、ベトナムやインドネシアでは成長への期待が高い一方、投資を増やしている企業の割合はタイが最も高く、AI・テクノロジーを成長機会として捉えている企業の割合はシンガポールが最も高くなっています。
つまり「ASEAN」という一つの地域で見ても、市場ごとにビジネス環境や企業の動きには違いがあります。
シンガポールを地域統括拠点としてASEAN各国で事業を展開している企業様にとっては、これは重要なポイントです。
例えば、シンガポールで有効だった採用手法や人材の採用条件がそのままベトナム、インドネシア、タイ、マレーシアなどでも有効とは限りません。
各市場の人材の流動性や採用環境、企業の投資意欲などを踏まえて、それぞれの市場に合わせて考える必要があります。
一方で、すべてを市場ごとに個別対応する必要があるというわけでもありません。
企業のブランド力やガバナンス、リーダーシップに関する考え方など、地域全体で共通の基準を持つことが有効な領域もあります。
そのため、ASEAN全体で人材戦略を考える際には、「共通化する部分」と「市場ごとに調整する部分」を分けて考えることが重要です。
特に、人員計画や採用戦略、報酬、採用のタイミングなどは、ASEAN全体で一律に設定するのではなく、それぞれの市場環境を踏まえて判断することが求められます。
8. 2026年、シンガポール企業が取り組みたい5つの人材戦略
ここまでの調査結果を踏まえ、弊社では、シンガポールで事業を展開する企業が今後の人材戦略を考える際に以下の5点が重要になると考えています。
新しいポジションを設ける理由を明確にする
採用がより選択的になる環境では、「なぜこのポジションが必要なのか」を明確にすることが重要です。
例えば、新規事業や売上機会への対応、専門的なスキル不足の解消、規制対応、欠員補充、生産性上の課題など、採用の背景を明確にすることが考えられます。こうした基準を明確にすることで、必要な人材をより適切に見極めることができます。
採用が必要になる前から人材パイプラインを構築する
採用を絞っている企業であっても、重要ポジションに対する人材ニーズが突如発生するケースはあります。
その際、ゼロから候補者を探し始めるのではなく、あらかじめ関連する人材とのネットワークを構築しておくことで、採用が必要になった際の選択肢を増やすことができます。特に、専門性の高いポジションやリージョナルポジションでは、こうした継続的なタレントパイプラインの構築が重要です。
テクノロジー戦略と人材戦略を連動させる
AI・テクノロジーが事業成長の重要なテーマとなる中では、「AI人材を採用する」という視点だけでは十分ではありません。
AIやデジタルツールを導入することで業務そのものが変わる可能性があるため、どのようなスキルが必要になるのか、どの業務を再設計するのか、AIと人がどのように協働するのかといったところまで含めて考えることが重要です。また、必要となるのは、技術的な専門知識だけではありません。業務プロセスの再設計、チェンジマネジメント、データリテラシー、顧客とのコミュニケーション、AIを適切に活用する能力なども、今後重要性が高まる可能性があります。
リージョナルポジションについて、市場ごとにベンチマークする
今回の調査で特に重要なのは、ASEAN各国の間にも明確な違いがあることです。シンガポールで有効だった採用戦略がそのまま他のASEAN市場でも機能するとは限りません。ASEAN全体で人材を採用する企業では、各国の採用市場、候補者の動向、報酬水準、採用スピードなどを比較しながら、市場ごとに戦略を調整することが求められます。
市場が「過熱」する前から競争に備える
シンガポールがASEAN企業にとって有力な事業拡大先であることを考えると、企業全体の採用数だけを見て人材市場の競争状況を判断するのは十分ではありません。全体として採用が慎重な市場でも、特定のスキルや経験を持つ人材については競争が激しくなる可能性があります。そのため「採用市場が熱くなってから採用活動を始める」のではなく、重要ポジションについては早い段階から市場を把握し、人材パイプラインを構築しておくことが重要です。
9. より大きな変化:成長には、これまで以上の精度が求められる
今回は、ASEANにおける企業の成長・投資・採用動向と、そこから見えてくるシンガポールの人材戦略のポイントについてご紹介しました。
調査結果から見えてきたASEANの姿は、「採用が大幅に減少している市場」でも、「企業が一斉に人員を増やしている市場」でもありません。
むしろ、必要な人材を選択的に採用しながら、業務効率化やテクノロジーへの投資を組み合わせて成長を目指す、より戦略的な成長モデルへと移行していると考えられます。
シンガポールで事業を展開する企業様にとっても、今後は「何人採用するか」だけではなく、「採用の精度」つまりどの能力を外部から採用するべきか、どのスキルを社内で育成するべきか、そしてテクノロジーによって仕事そのものをどう変えていくかといった視点がより重要になっていくでしょう。
ビジネス環境が慎重な局面にあるからこそ、すべての採用を抑制するのではなく、事業成長に直結する人材への投資を見極めることが求められています。
シンガポールをASEANの拠点として活用する企業にとって、2026年は「採用を増やすか、減らすか」ではなく、限られた人材投資をどこに振り向けるかを考える年になりそうです。
調査レポートの詳細はこちら
今回の記事で紹介した内容は、当グループと楽天インサイト様が実施した「The Great Restructuring: ASEAN Consumer & Business Pulse Survey 2026」の調査結果をもとにしています。6カ国の市場比較や、より詳細な2026年のASEANビジネストレンドについては、ぜひフルレポートをご覧ください。
ASEAN各国で採用を行う企業の皆様へ
リーラコーエンシンガポールでは、人員計画、人材市場に関するインサイト、採用支援について、企業の皆様のご相談を承っています。
また、複数のASEAN市場で人材採用を行っている企業様に対しても市場ごとの採用計画や人材採用をサポートしております。
ぜひお気軽に弊社アドバイザーまでご相談ください。
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