シンガポール独立61周年から考える、企業が今あらためて見直したい3つの視点

こんにちは。
リーラコーエンシンガポール マーケティング担当の野上です。
毎年8月9日は、シンガポールの独立記念日 (National Day) です。
今年2026年は独立から61周年を迎える年です。
街中には国旗や記念装飾が並び、毎年恒例のNational Day Parade (ナショナルデーの記念式典 : 通称NDP) をはじめ、国全体がお祝いムードに包まれる特別な一日です。
今年も華やかな国旗やデコレーション、週末のリハーサルの花火をご覧になられた方も多いのではないでしょうか。
建国当時のシンガポールは、天然資源に恵まれず、国内市場も決して大きくありませんでした。
しかし今日にはアジアを代表するビジネス・金融ハブとして、多くのグローバル企業が拠点を構える国へと発展しています。
こうした成長を支えてきた背景には、シンガポールが長年大切にしてきた価値観があります。
その中でも、「実力主義(Meritocracy)」「多民族・多文化の尊重(Multiracialism)」「政労使の協力(Tripartism)」は、社会だけでなく企業活動にも大きな影響を与えてきました。
これらは建国当初だけの考え方だけではなく、現在の採用や人材育成、組織づくりにも受け継がれており、シンガポールで事業を展開する企業にとっても理解しておきたい考え方と言えます。
そこで今回は、今年のナショナルデーをきっかけに、シンガポールが大切にしてきた3つの価値観を振り返りながら、これらがシンガポールでビジネスを行う企業の採用や組織づくりにどのような示唆があるのかについてご紹介してまいります。
【目次】
1. 実力主義 (Meritocracy) ―公平な採用・評価を考える
2. 多民族・多文化の尊重 (Multiracialism) ―多様性を活かす組織づくり
3. 政労使の協力 (Tripartism) ―シンガポールの雇用を支える仕組み
4. ナショナルデーを機に、企業が考えたい3つのこと
5. 最後に
1. 実力主義 (Meritocracy) ―公平な採用・評価を考える
シンガポールでは、能力や実績に基づいて機会を与える「実力主義 (Meritocracy) 」が、建国以来の重要な考え方の一つとされています。
現実にはさまざまな課題や議論もありますが、「個人の能力や成果を重視し、出身や属性だけで判断しない」という考え方は、現在の雇用制度や採用のあり方にも受け継がれています。
企業にとっての実力主義とは、「異なるバックグラウンドの候補者から公平に採用する」と掲げることだけではありません。
例えば、採用要件として設定している資格や経験は「本当にその職務に必要なものなのか」「過去から引き継がれてきた条件を、そのまま慣例として設定していないか」といった点を定期的に見直すことも公平な採用につながります。
また、面接や評価の場面では、応募者ごとに異なる基準で判断していないかを意識することも重要です。
無意識の思い込みや先入観が起こりうるからこそ、評価基準を明確にし、できるだけ一貫した判断を行う仕組みづくりが求められるでしょう。
シンガポールでは、公平な採用・雇用を推進するため、Tripartite Guidelines on Fair Employment Practices (公平な雇用慣行に関する三者ガイドライン) が運用されています。
また、2025年にはWorkplace Fairness Act (職場公正法) が成立し、2027年末までに全面施行される予定です。
この法律は、採用や雇用における不当な差別の防止を目的としており、人種や宗教などの保護対象に関する法的な枠組みが整備されます。
制度が整備される中で企業に求められるのは、ただ法律を守ることだけではありません。
誰もが能力を発揮できる環境になっているかという視点で、自社の採用や評価制度を見直し続けることもシンガポールで事業を行う企業にとって大切な取り組みと言えるでしょう。
2. 多民族・多文化の尊重 (Multiracialism) ―多様性を活かす組織づくり
シンガポールを語るうえで欠かせないのが、「多民族・多文化国家」であるという特徴です。
人口の約7割を中華系が占める一方、マレー系、インド系、その他さまざまなルーツを持つ人々が暮らしており、英語・中国語・マレー語・タミル語の4つが公用語として定められています。宗教や文化、生活習慣も多様であり、それぞれを尊重しながら社会が成り立っています。
企業にも、この多様性はそのまま反映されています。
同じ職場で働くメンバーでも、育ってきた文化や価値観、コミュニケーションの取り方は様々です。
会議で積極的に意見を述べることを自然と考える人もいれば、まず相手の話を聞いてから発言することを大切にする人もいます。
仕事への向き合い方や意思決定の進め方にも違いが見られることがあります。
だからこそ、多様な人材が活躍できる職場づくりでは「全員を同じように扱うこと」だけが公平とは限りません。
それぞれの違いを理解し、お互いが力を発揮しやすい環境を整えることが重要になります。
例えば、社内の共通言語が英語であっても、会議資料を事前に共有することで議論に参加しやすくなるケースがあります。
また、宗教上の行事や祝日に配慮したスケジュール調整、異なる文化的背景を持つメンバー同士が交流する機会を設けることも、多様性を尊重する取り組みの一つと言えます。
こうした工夫は、特別な制度を新たに導入しなくても、日々のコミュニケーションやマネジメントの積み重ねで誰もが安心して働ける職場づくりにつなげることができます。
近年は、多様性 (Diversity) だけでなく、誰もが能力を発揮しやすい環境をつくる「インクルージョン (Inclusion) 」の重要性も広く認識されるようになっています。
多様な人材が集まるだけでなく、一人ひとりが尊重され、意見を発信しやすい組織であることが企業の持続的な成長にもつながると考えられています。
シンガポールで事業を展開する企業にとっても、多様性への理解は「海外だから必要」というものではありません。
さまざまな価値観を持つ人材と協力しながら成果を生み出すための組織づくりの基本とも言えるのではないでしょうか。
3. 政労使の協力 (Tripartism) ―シンガポールの雇用を支える仕組み
シンガポールの雇用政策を語るうえで、もう一つ欠かせないのが「政労使協力 : Tripartism (トリパータイズム)」です。
これは、政府、企業、そして労働者を代表する団体が互いに協力しながら雇用や労働環境に関する課題へ取り組むという考え方です。
シンガポールでは、この枠組みを通じて、人材育成や賃金、雇用慣行などさまざまなテーマについて議論が行われています。
公平な採用を推進するTripartite Guidelines on Fair Employment Practicesも、この三者による協力体制の中で策定・運用されてきました。
特に、新型コロナウイルス感染症の拡大時には、雇用維持や企業支援に関するさまざまな施策が講じられ、政府・企業・労働者が連携して対応を進めてきました。
景気変動や社会環境の変化に対して、一方的な判断ではなく、三者で協力しながら解決策を探る姿勢は、シンガポールの雇用政策の大きな特徴の一つといえます。
2026年現在も、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。
AIの活用が急速に広がる一方で、求められるスキルは変化し続けています。
また、働き方に対する価値観も多様化し、従業員は給与だけでなくキャリア形成や柔軟な働き方、企業の将来性など、様々な視点で職場を選ぶようになっています。
こうした環境だからこそ、企業には従業員との丁寧なコミュニケーションがこれまで以上に求められます。
例えば、組織変更や制度改定を行う際には、その背景や目的をできるだけ分かりやすく共有すること、事業環境の変化について適切なタイミングで説明することなど、小さな積み重ねが従業員との信頼関係につながります。
すべての情報を公開できるわけではない一方で、必要な情報が適切に共有される職場では従業員も会社の方向性を理解しやすくなり、安心して仕事に向き合うことができるでしょう。
シンガポールのTripartismは、単なる制度ではなく、「立場の異なる人々が対話を重ねながら課題を解決していく」という考え方でもあります。
企業においても、経営層と管理職、管理職と現場、あるいは部署同士が日頃からコミュニケーションを取り、お互いの立場を理解しながら風通し良く進めていくことは、変化の激しい時代だからこそより重要になっているのではないでしょうか。
4. ナショナルデーを機に、企業が考えたい3つのこと
シンガポール建国61周年という節目は、この国が大切にしてきた価値観を改めて振り返る機会でもあります。
採用や組織づくりに正解はありませんが、次のような視点で自社を見つめ直してみることは、これからの組織づくりのヒントになるかもしれません。
採用や評価の基準は、現在の事業に合ったものになっているか
募集要件や評価基準は、一度決めると長年そのまま運用されることも少なくありません。
「以前からこの条件だから」という理由だけで続けている基準がないか、本当にその職務に必要な条件なのかを定期的に見直すことは、公平な採用や適切な人材配置につながります。
多様な人材が、それぞれの力を発揮しやすい職場になっているか
国籍や文化だけでなく、価値観や働き方も多様化している今、一人ひとりが安心して意見を伝え、能力を発揮できる環境づくりは、企業の重要な課題の一つです。
日々のコミュニケーションやマネジメントを少し見直すだけでも、より働きやすい職場につながることがあります。
変化があるときこそ、従業員との対話を大切にできているか
事業環境が変化する中では、組織変更や制度改定、新たな取り組みが必要になる場面もあります。
その際、背景や目的をできるだけ丁寧に共有し、従業員とのコミュニケーションを積み重ねることは、相互理解や信頼関係の構築につながります。
変化が大きい時代だからこそ、「伝えること」「対話すること」の重要性は、これまで以上に高まっていると言えるでしょう。
5. 最後に
今回は、シンガポールの61周年をきっかけに、この国が大切にしてきた3つの価値観をご紹介してまいりました。
これらはシンガポールの歴史や制度を理解するためのキーワードであると同時に、採用や人材育成、組織づくりを考える上でも多くの示唆を与えてくれます。
働き方や人材を取り巻く環境が大きく変化する中で、企業には法令を遵守することはもちろん、一人ひとりが能力を発揮し、多様な人材が安心して働ける環境づくりがますます求められています。
ナショナルデーは、シンガポールの歩みを祝うだけでなく、この国で事業を行う企業が自社の採用や組織づくりを見つめ直すきっかけにもなる一日とも捉えることができます。
リーラコーエン シンガポールでは、現地の採用市場や法制度、人材トレンドに関する情報を発信するとともに、企業の採用活動や組織づくりをサポートしています。
シンガポールでの採用や人材に関するお悩みがございましたら、ぜひお気軽にご相談くださいませ。
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