「すべての仕事は守れない」シンガポール政府が進めるAI時代の雇用改革


こんにちは! リーラコーエン シンガポール リサーチャーのShihoです。

AIの進化によって、「自分の仕事は将来も必要とされるのか」と不安を感じる人は少なくありません。

こうした変化に対し、シンガポール政府はすでに本格的な対応を進めています。

2026年5月のメーデー集会で、シンガポールのローレンス・ウォン首相は「すべての仕事を守ることはできない。しかし、すべての労働者は守る」と明言しました。

これは単なるスローガンではなく、AI時代に向けた雇用政策の方向性を示すものです。

本記事では、シンガポール政府が現在進めている取り組みを、日本人読者向けに整理しながら紹介します。


【目次】
1. AI時代に向けたシンガポール政府支援策
2. シンガポールで広がる「学び続ける前提」
3. 日本人にとって、この動きはどう映るか
4. 最後に

 

1. AI時代に向けたシンガポール政府支援策



シンガポール政府と労働組合 (NTUC) は、AI時代に向けていくつかの新しい施策を発表しました。

その一つが、「Tripartite Jobs Council (TJC) 」と呼ばれる新組織です。

これは政府、企業、労働組合が連携し、AI時代の雇用転換を支援するための枠組みで、AI研修やキャリア支援、企業内での職種転換などを後押しします。
 

また、これまで別々に運営されていた「SkillsFuture Singapore」と「Workforce Singapore」を統合し、新たな「Skills and Workforce Development Agency」を設立することも発表されました。

これにより、スキル習得、転職支援、就業サポートを一元的に受けやすくする狙いがあります。


さらに、労働組合員向けにはAIツール利用料の補助も導入される予定です。

単なる学習だけでなく、「実際にAIを仕事で使う」ことを重視している点が特徴的です。

 

2. シンガポールで広がる「学び続ける前提」

弊社リーラコーエンが337人の働く人々を対象にアンケートを実施した「Beyond the Paycheque: Singapore Employee Sentiment Study 2026」によると、多くの労働者は自身の仕事や将来のキャリアについて「極端に不安でもないが、完全に安心しているわけでもない」という中間的な心理状態にあることが分かっています。

特に2026年は、将来への不透明感が高まる中、従業員は企業から得られる「安心感」をこれまで以上に重視しており、会社側の説明やコミュニケーションが離職防止にも影響しているとされています。 


一方で、働く人々が本当に気にしているのは、「AIそのもの」よりも、企業や政府が約束している支援策が実際に機能するのかどうか、という点のようです。

シンガポールでは昨今、学び直し (リスキリング) がキャリア形成の前提になりつつあります。

上記調査では、シンガポールの採用担当者の68.6%が「AI・デジタル関連スキル」を最重要分野だと回答しており、76.6%は「スキルアップの証明」が採用時に重要だと考えています。

つまり、「勉強している」だけでは十分ではなく、「どんな研修を受けたか」「どんな資格を取得したか」「実際に何を作ったか」といった可視化されたスキルが重視されているのです。
 

また、シンガポールの採用市場全体で依然として人材確保が難しいとされている職種として、

・テック系エンジニア
・営業・事業開発
・ロジスティクス
・専門プランニング職

などが挙げられました。

共通するのは、これらの職種がいずれも「人間の判断力」が強く求められる仕事であるという点です。

AI時代であっても、こうした領域の価値は依然として高いことがうかがえます。


3. 日本人にとって、この動きはどう映るか

シンガポールの取り組みは、日本人にとっても参考になる部分が少なくありません。
 

特に印象的なのは、「変化は避けられない」という前提で政策が設計されている点です。

日本では今も企業単位での雇用維持が重視される傾向がありますが、シンガポールでは個人が継続的にスキルを更新し、市場価値を高め続るけことが強く求められています。


また、シンガポールで働く日本人にとっては、こうした変化はさらに重要です。

多くの公的支援はシンガポール国民や永住者向けであり、外国人が利用できる制度は限られています。

当地でキャリアを維持するには、自らスキルを磨き続ける姿勢がより重要になります。

以前は強みとなった「日本語・英語の能力」や「日系企業経験」も今では差別化が難しくなりつつあり、即戦力としての専門性が、これまで以上に重視されています。

それに加えてAIやデジタルツールを使いこなせること、リージョナルな視点を持つことなどが、今後さらに重要になっていくと考えられます。

 

4. 最後に

シンガポール政府の動きから見えてくるのは、「AIによる変化を止める」のではなく、「変化に適応できる社会を作る」という方向性です。

そこから見えてくるのは、「支援は用意するが、動くのは個人自身」というシンガポールらしい姿勢です。

変化への対応は企業任せではなく、政府・労働組合・個人がそれぞれ役割を担うことが前提になっています。


日本でもAI活用やリスキリングの議論は進みつつありますが、シンガポールはそれを国家レベルで加速させている印象があります。

これからの時代に求められるのは、「変化しない仕事」を探すことではなく、「変化できる自分」をどう作るか。

シンガポールの取り組みは、その現実を象徴しているのかもしれません。


【参考記事】5分でわかる、シンガポールメーデー演説 採用・人材戦略はどう変わるのか
 

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