シンガポールの名目賃金上昇率は4.9% 人材開発省レポートから見る最新の賃金動向

こんにちは。

リーラコーエンシンガポール マーケティング担当の野上です。

2026年5月28日、シンガポール人材開発省 (以降MOM) は、2025年度における当地の賃金動向に関する報告書「Report on Wage Practices 2025」を発表しました。

これは、シンガポール国内の民間企業を対象に毎年実施される賃金調査で、昇給状況や業界別の賃金動向、企業業績との関係などを把握するうえで重要な統計資料の一つです。

2025年の名目賃金上昇率は4.9%となり、前年の5.6%からやや低下しました。

一方で、インフレ率の鈍化を背景に、実質賃金の上昇率は4.0%となり、労働者の購買力は前年より改善した結果となりました。


今回は、MOMが公表した同最新レポートをもとに、2025年のシンガポールにおける賃金動向について整理してまいります。


【目次】
1. MOM「Report on Wage Practices」とは
2. 2025年の名目賃金上昇率は4.9%
 - 実質賃金は4.0%上昇
 - 黒字企業の割合は堅調に推移
 - 昇給を実施した企業は7割強
3. 業界別の賃金上昇率
4. 職階別では若手管理職が最も高い伸び
5. 今回のレポートから読み取れること
6. 最後に


1. MOM「Report on Wage Practices」とは

Report on Wage Practicesは、MOMが毎年実施している賃金動向調査レポートです。

今回の調査は2025年11月17日から2026年3月30日にかけて実施され、従業員10名以上の民間企業6,236社から回答を得ています。

対象となる賃金には基本給だけでなく、雇用主によるCPF (Central Provident Fund:中央積立基金) 拠出分や年次変動手当 (Annual Variable Component:AVC) も含まれています。

また、本レポートでは主に同一企業に1年以上勤務しているフルタイムのシンガポール国民および永住権 (PR) 保持者を対象に賃金変化を分析しています。


2. 2025年の名目賃金上昇率は4.9%

本レポートによると、2025年の名目賃金上昇率は4.9%でした。

前年の5.6%からは0.7ポイント低下したものの、引き続きプラス成長を維持しています。

MOMは、名目賃金上昇率が前年から低下した背景として、インフレの鈍化を挙げています。

2025年は物価上昇率が前年を大きく下回ったことから、企業が物価上昇への対応として実施する賃上げ圧力も和らいだ可能性があると分析しています。

賃金上昇率自体は前年を下回ったものの、依然として堅調な伸びを示した結果となりました。


実質賃金は4.0%上昇

賃金動向を評価するうえでは、物価変動を考慮した「実質賃金」も重要な指標です。

2025年の実質賃金上昇率は4.0%となり、2024年の3.2%から上昇しました。

これは、2025年の消費者物価指数 (CPI) 上昇率が0.9%と、前年の2.4%から大きく鈍化したことが主な要因です。

名目賃金上昇率は4.9%と前年の5.6%を下回ったものの、インフレ率の低下幅がそれを上回ったため、実質賃金は改善しました。

MOMは、この結果について「従業員の購買力が改善したことを示している」と説明しています。

賃金の伸びが物価上昇を上回ったことで、実質的な生活水準の向上につながったと考えられます。


黒字企業の割合は堅調に推移

企業業績についても比較的堅調な結果が示されました。

2025年に黒字だった企業の割合は83.1%となり、前年の80.8%から上昇しています。

一方で、赤字企業の割合は19.2%から16.9%へ低下しました。

多くの企業が安定した経営状況を維持していたことがうかがえる結果となっています。


昇給を実施した企業は7割強

2025年に昇給を実施した企業の割合は72.4%となりました。

これは2024年の78.3%から低下した水準です。

一方で、給与水準を維持した企業の割合は18.5%から24.5%へ上昇しました。

昇給を実施した企業に限定すると、平均昇給率は5.8%となっています。

また、MOMによると、昇給を実施した理由として最も多く挙げられたのは「従業員の引き留め(Retention) 」でした。

人材市場が引き続き競争的な環境にあるなか、優秀な人材の定着が賃金決定における重要な要素となっていることがうかがえます。

なお、賃金を引き下げた企業の割合は3.1%と前年から大きな変化はなく、全体としては賃金維持または上昇を選択した企業が大多数を占めました。

 

3. 業界別の賃金上昇率

2025年は調査対象となった全14業種で賃金上昇が確認されました。

そのなかでも特に高い上昇率を記録した業界は以下の通りです。


(※データ:MOM Report on Wage Practices )


最も高い上昇率となった総務管理・支援サービスは7.5%を記録しました。

MOMは、低所得者層の賃金引き上げを目的としたProgressive Wage Model (PWM) や、外国人雇用枠算定の基準となるLocal Qualifying Salary (LQS) などの施策の影響により、同業界の賃金上昇が継続していると説明しています。

また、保険サービスや金融サービスでは、専門職や管理職人材への需要が引き続き堅調であったことから、全体平均を上回る賃金上昇率となりました。

一方で、以下の業界は全体平均の4.9%を下回りました。

このように業界ごとに差はあるものの、全体としては幅広い業種で賃金上昇が見られました。


4. 職階別では若手管理職が最も高い伸び

職階別に見ると、若手管理職層が最も高い賃金上昇率となりました。


若手管理職    5.1%
上級管理職    4.9%
一般従業員    4.8%


いずれの職階でも賃金は上昇しており、特定の層に限定された動きではないことがわかります。


5. 今回のレポートから読み取れること

2025年のシンガポールでは、名目賃金・実質賃金ともに上昇が続きました。

名目賃金上昇率は前年を下回ったものの、インフレ率の低下により実質賃金は改善し、労働者の購買力向上につながっています。

また、黒字企業の割合は増加した一方で、昇給を実施した企業の割合は低下しました。

企業収益と賃金政策が必ずしも同じ方向に動くわけではないことを示す結果ともいえます。

さらに、全14業種で賃金上昇が確認されており、シンガポールの労働市場全体としては引き続き堅調な賃金成長が見られました。

今後について、MOMは世界経済を取り巻く不確実性の高まりや物価上昇リスクなどを背景に、賃金上昇率は引き続きプラスを維持するものの、そのペースは緩やかになる可能性があるとしています。

また、実質賃金の持続的な成長については、生産性向上や企業の競争力強化、従業員のスキル向上などが重要な要因になるとの見解を示しています。


6. 最後に

今回は、MOMが発表した「Report on Wage Practices 2025」をもとに、2025年のシンガポールにおける賃金動向についてご紹介いたしました。

今回のレポートでは、賃金上昇が引き続き広い業種で見られた一方で、企業ごとの賃金決定には慎重な姿勢も見られているというトレンドが垣間見られました。

また、インフレの落ち着きにより実質賃金が改善したことは、労働者の購買力という観点からも注目されるポイントです。

賃金動向は、企業の人材戦略や採用計画を考えるうえでも、個人のキャリア形成を考えるうえでも重要な指標の一つです。

弊社としても、今後もこうした統計データや市場動向を注視しながら、シンガポールの雇用市場に関する情報を継続的に発信してまいります。

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