シンガポールのナショナルデーメッセージ2026から読み解く、雇用・AI・採用市場のこれから

こんにちは。リーラコーエンシンガポール マーケティング担当の野上です。
先週末のナショナルデー、皆様はいかがお過ごしでしたか。
華やかな花火や戦闘機のショーなどを近くでご覧になられた方も多いのではないでしょうか。
さてその前日となる2026年8月8日、ローレンス・ウォン首相による2026年ナショナルデーに際したメッセージが放送されました。
世界情勢が不透明さを増すなか、今回のメッセージでは、シンガポールがこれからどのように成長を続け、変化に備えていくのか、その方向性が示されました。
シンガポールで働く方や、現地で採用活動を行う企業様にとっても、今回のメッセージにはおさえておきたいポイントがいくつかあります。
特に、労働市場、AIによる仕事の変化、人材育成、国際的なつながり、そして仕事と家庭の両立などのテーマは、これからの雇用環境を考えるうえで注目したいトピックスです。
そこで今回は、ナショナルデーメッセージの内容を「雇用・人材」という視点から見ながら、2026年後半のシンガポールの採用市場やキャリアについて考えていきたいと思います。
※本記事はNational Day Message全体を要約するものではなく、雇用・人材に関連する内容に焦点を当てています。また、今後発表される政策について推測するものではありません。ご了承ください
【目次】
1. シンガポールの労働市場は堅調とはいえ、変化にも注目
2. 採用意欲は改善傾向 一方で、企業は慎重に
3. AIは「テクノロジー」だけでなく「人材戦略」のテーマに
4. 「開かれたシンガポール」の重要性を改めて強調
5. 家族を取り巻く環境も「働き方」の重要なテーマに
6. 企業が今から考えておきたい5つのポイント
7. シンガポールで働く方が今からできること
8. 最後に
1. シンガポールの労働市場は堅調とはいえ、変化にも注目

今回のメッセージの中でウォン首相は、世界各地での紛争や貿易障壁の高まり、国家間の信頼低下などシンガポールを取り巻く環境が厳しさを増していることに触れました。
その一方で、シンガポール経済は引き続き堅調で、2026年前半の成長も力強く、労働市場についても安定して新たな雇用が生まれていると説明しています。
こうした状況は、最新の人材市場データからも確認できます。
シンガポール人材開発省 (Ministry of Manpower : 以降MOM) が7月31日に発表した2026年第2四半期の労働市場速報によると、2026年第2四半期の総雇用者数は前四半期から10,700人増加しました。
これにより、雇用者数は2021年第4四半期以降、驚くべきことに19四半期連続で増加しています。
また、2026年6月時点の失業率は、
・全体:2.0%
・居住者:2.9%
・シンガポール国民:3.0%
となっており、低い水準で概ね安定しています。
このように、数字だけを見るとシンガポールの雇用市場は比較的安定しているように見えますが、業界によってばらつきがあるのが現状となっています。
また、2026年第2四半期のリストラに伴う解雇 (Retrenchments) は4,500人となり、第1四半期の3,830人から増加しました。
MOMによると、この増加は一部の外需依存型産業に集中しており、主な要因は事業再編でした。
この増加は景気後退期に一般的に見られる水準と比較すると、依然として低い水準にあると説明されています。
これらのことから、現在のシンガポールの労働市場は、雇用が増加する一方で、一部の産業では事業環境の変化による影響も見られる状況だと言えそうです。
企業にとっては、シンガポール全体の景気だけを見るのではなく、自社の業界や事業環境、需要の変化などを踏まえて採用計画を考えることが、これまで以上に大切になるのではないでしょうか。
2. 採用意欲は改善傾向 一方で、企業は慎重に

今後の採用動向を示す指標にも、少し明るい変化が見られています。
MOMのデータによると、今後3カ月以内に採用を予定している企業の割合は、2026年5月の40.6%から6月には43.9%へ上昇しました。
また、今後3カ月以内に賃金を引き上げる予定の企業も、23.7%から29.3%へ増加しています。
一方、今後3カ月以内に人員削減を予定している企業の割合は、3.2%から2.7%へ低下しました。
こうした数字を見ると、企業の採用や賃上げに対する意向には、改善の兆しが見られます。
ただし、採用市場全体を一つの方向だけで捉えることはできません。
業界や職種、企業によって事業環境は異なるため、「シンガポールの採用市場は良い / 悪い」と大きく括るのではなく、自社を取り巻く状況を見ながら判断することが大切です。
MOMの2026年第2四半期の労働市場については、9月中旬に詳細なレポートが発表される予定です。
今後、業界別の雇用、求人、離職などのデータが示されることで、さらに具体的な市場の動きが見えてくることになりそうです。
3. AIは「テクノロジー」だけでなく「人材戦略」のテーマに

今回のナショナルデーメッセージで、もう一つ注目したいのがAIに関するトピックスでした。
ウォン首相は、AIによって産業や仕事のあり方が変化している一方、仕事を失うことへの不安を抱える人もいることに触れました。
その上で、シンガポールはAIを活用して生産性を高め、より良い仕事を生み出すとともに、労働者が変化に適応し成長していけるよう、スキルやトレーニングへの投資を進めていく方向性を示しています。
こうした方向性は、すでに進められている当地の人材育成の取り組みにも表れています。
例えば、National AI Impact Programme (NAIIP) では、情報通信メディア開発局 (Infocomm Media Development Authority : 通称IMDA) がICTおよびデジタル分野での高度人材育成・リスキリングを目的とした国家戦略プログラム「TechSkills Accelerator (TeSA) 」を拡大し、3年間で4万人のテクノロジー人材のスキルアップを支援する予定です。
また、専門領域の知識を持つ10万人の労働者を対象に、AIを理解し自身の業務に活用できる「AIバイリンガル人材」を育成することも目指しています。
ここでポイントとなるのは、AIの導入だけではなく、AIと人材育成をどのように組み合わせていくかという視点です。
企業にとっては、AIツールを導入するだけでなく、例えばAIによって変化する業務は何か、AIと人がどのように役割分担するのか、今後必要となるスキルは何か、業務や職務をどのように再設計するのか、必要なスキルをどのように育成するのか、といった点を、採用や人材育成と合わせて考えていくことが重要になりそうです。
また、政府が企業の組織変革と人材育成を包括的に支援するための助成金制度「SkillsFuture Workforce Development Grant」のJob Redesign+では、対象となる企業に対して、業務変革やジョブ・リデザインにかかる費用をSMEは最大70%、非SMEは最大50%、1企業あたり最大15万シンガポールドルまで支援しています。
4. 「開かれたシンガポール」の重要性を改めて強調

今回のメッセージでは、シンガポールと世界とのつながりについても触れられました。
ウォン首相は、小さな国であるシンガポールにとって、世界とのつながりを維持することは「選択肢」ではなく、必要不可欠なことであると説明しています。
また、新しいアイデアを受け入れ、世界とのつながりを築き、シンガポールに貢献し、ここを自分の故郷にしたいと考える人々を受け入れていく姿勢についても述べています。
シンガポールを拠点に地域・国際的な事業を展開する企業にとっても、こうした方向性は注目しておきたいポイントです。
外国人材の採用や就労に関する具体的なルールについては特に新たな施策の発表はなく、引き続き既存のWork Passや人材政策の枠組みに基づいて運用される予定ですが、企業にとっては、こうした国際的な環境の中で地域や海外市場に対応できる人材をどのように確保・育成していくかが、人材戦略を考えるうえで一つのテーマとなると言えるでしょう。
5. 家族を取り巻く環境も「働き方」の重要なテーマに

今回のメッセージでは、仕事や人材とは一見離れているように見える「家族」についても言及がありました。
ウォン首相は、仕事、子育て、そして高齢の親の介護を同時に担うことで、多くの家庭が負担を感じていることに触れています。
政府は、子育てにかかる費用や、利用しやすい乳幼児・保育サービスなどを含め、人生のさまざまな段階において家族をどのように支援していくか、大規模な見直しを進めています。
詳細については、8月末に予定されているナショナルデー演説の方で発表される予定です。
今回のメッセージでは、具体的な新しい職場政策が発表されたわけではありませんが、ここで示された問題意識は、企業の人材マネジメントとも関係するテーマとも言えます。
従業員が仕事と家庭の両方を担う中では、柔軟な働き方やマネージャーからのサポート、業務負担や従業員のウェルビーイングなども、働き続けるうえでの環境に関わる要素となります。
そのため、人材の定着を考える際には、給与や福利厚生だけでなく、さまざまなライフステージに対応できる働き方や職場環境について考えることも大切になりそうです。
6. 企業が今から考えておきたい5つのポイント

今回のナショナルデーに出されたメッセージと最新の労働市場データを踏まえると、企業は次のような点を確認しておくとよいでしょう。
自社の業界・事業環境に合わせて人員計画を見直す
経済全体の動きだけではなく、自社の業界や事業環境を踏まえて採用計画を考える
AIによって変化する仕事を把握する
AIによって変化する業務を整理し、人材やスキルにどのような影響があるかを考える
今後必要となるスキルを整理する
新たな採用だけではなく、既存社員のスキルアップやジョブ・リデザインも含めて人材戦略を考える
労働市場の変化に合わせて採用計画を見直す
今後発表されるMOMの詳細な労働市場データなども確認しながら、採用の必要性やタイミングを検討する
働き続けられる環境について考える
給与だけではなく、柔軟な働き方やマネージャーによるサポートなども含め、従業員が長く働ける環境を考える
7. シンガポールで働く方が今からできること

一方、シンガポールで働くプロフェッショナルにとっても、今回のメッセージはこれからのキャリアについて考えるきっかけになりそうです。
自分の仕事とAIの関係を考える
AIによって仕事がどのように変化する可能性があるのか、自身の専門知識とAIをどのように組み合わせられるのかを考えてみましょう
継続的にスキルをアップデートする
特定の業務だけに依存するのではなく、変化する仕事環境に対応できるよう、継続的にスキルを身につけていくことが大切です
8. 最後に

今回は、2026年8月8日に発表されたNational Day Messageをもとに、シンガポールの労働市場、AIと人材育成、国際的なつながり、そして仕事と家庭の両立についてご紹介するとともに、企業や当地で働く方への影響について考えてまいりました。
現在のシンガポールでは、雇用者数が引き続き増加する一方で、世界情勢や事業環境の変化、AIの普及など、働く環境も少しずつ変化しています。
こうした変化の中では、企業にとっては今後必要となる人材やスキルを考えること、働く方にとっては自身の経験やスキルをどのようにアップデートしていくかを考えることが、これまで以上に大切になりそうです。
今回のメッセージで示されたテーマについては、さらに具体的な内容が今後発表される予定です。
シンガポールの雇用環境がどのように変化していくのか、引き続き注目していきたいところです。
弊社でも引き続き最新情報をウォッチし、今後もシンガポールの労働市場や採用、人材に関する最新情報を、分かりやすくお届けしてまいります。
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