「給与だけ」では人材は定着しない? 2026年、シンガポール企業が考えるべき「働き続けられる環境」とマネジメント


こんにちは! リーラコーエン シンガポール リサーチャーのShihoです。

採用において、給与は依然として重要な要素です。

しかし、給与を上げるだけで、人材の定着につながるのでしょうか。

弊社リーラコーエンが先般リリースした調査結果レポート『Beyond the Paycheque: Singapore Employee Sentiment Study 2026』では、シンガポールで働く人が転職先を選ぶ際、基本給を最も重視する傾向が依然として見られます。
 

一方で、給与が多少低くても、仕事内容や働き方、上司との関係など、他の条件が良ければ転職先として検討する人も少なくありません。

今回の調査から見えてきたのは、給与だけでは解決できない「働き続けやすさ」の重要性です。

本記事では、調査結果から特に注目したい「業務量」と「マネージャーの質」に焦点を当て、シンガポール企業が人材定着のために取り組めるポイントをご紹介します。
 

【目次】
1. 給与だけ満たせば、人材は定着する?
2. 「無理なく働き続けられる業務量」が重要に
3. 「上司との関係」は、離職前から影響している
4. 人材定着のために、企業が90日間で取り組めること
5. 施策の効果をどのように確認する?
6. 積極的に転職活動をしていない従業員にも、定着施策は必要
7. でも、給与の見直しも忘れずに
8. 最後に

 

1. 給与だけ満たせば、人材は定着する?



転職先を選ぶうえで給与が重要な要素であることに変わりはありません。

上記調査では、約半数の従業員が転職先を選ぶ際の最も重要な要素として基本給を挙げています。

一方で、興味深いのは「給与が少し低くても、他の条件が良ければ受け入れられる」と考える人が一定数いることです。

また回答者の約7割が、こうした条件を受け入れる可能性があると回答しています。

ただし、給与の減額については「10%以内」または「減額なし」とする人が大半でした。
 

つまり、給与が重要ではなくなったわけではなく、むしろ給与を同じ水準に合わせるだけでは解決できない問題があることが分かります。

その一つが「無理なく働き続けられる業務量」、そしてもう一つが「従業員を適切にサポートするマネージャーの存在」です。

 

2.  「無理なく働き続けられる業務量」が重要に



今回の調査では、従業員から次のような声が寄せられています。

 「業務量が現実的で、上司がサポートしてくれるのであれば、多少給与が低くても気になりません」
     ※Reeracoen × Rakuten Insight『Beyond the Paycheque — Singapore Employee Sentiment Study 2026』より。n数=337

調査では、給与が多少低くても受け入れられる条件として、「業務量を無理なく維持できること」や「メンタルヘルスへのサポート」が、ワークライフバランスや柔軟な働き方に続く重要な条件として挙げられました。

ここで重要なのは、「Workload Sustainability (持続可能な業務量) 」という考え方です。

これは、単純に「残業が少ない」という意味ではなく、通常の勤務時間の中で毎週継続して対応できる現実的な業務量・仕事のペースになっているかという視点です。

一時的に忙しいことは、多くの仕事において避けられないことかもしれません。

ただ、常に業務量が過剰な状態が続けば、従業員が長く働き続けることは難しくなります。

企業にとっては、「どれだけ仕事を任せられるか」だけでなく、「その仕事量を継続的に担える環境になっているか」を考えることが、これまで以上に重要になってきているようです。


3. 「上司との関係」は、離職前から影響している

もう一つ、今回の調査で注目したいのがマネジメントの質です。

転職活動というと「現在の会社を辞めようと決めてから求人を探す」というイメージがあるかもしれませんが、今回の調査で積極的に転職活動をしていない段階でも、求人をチェックしている人が多いことが分かりました。

つまり、従業員が「辞めたい」と決めてから企業が対応するのではもう手遅れな可能性がある、ということです。

「この会社で働き続けたい」と思ってもらえる環境をつくることが、人材定着につながります。
 

調査では、次のような声も寄せられています。

「自分の仕事を認めてもらえたり、明確なキャリアアップの道筋が見えたりすると、この会社に残りたいと思います」
     ※Reeracoen × Rakuten Insight『Beyond the Paycheque — Singapore Employee Sentiment Study 2026』より。n数=337

従業員が仕事や職場を評価するのは、人事考査・評価のタイミングだけではありません。

日々のコミュニケーション、目標設定、フィードバック、仕事量への配慮など、日常的なマネジメントの積み重ねが「この会社で働き続けたい」という気持ちに影響してくるのです。


4. 人材定着のために、企業が90日間で取り組めること



今回の調査では、調査結果をもとに、企業が取り組むべき項目を「90日間の優先アクション」として整理しています。

給与・報酬
重要なポジションについて市場水準を確認し、給与レンジや昇給・キャリアアップの基準を明確にする
 

給与以外の待遇
給与だけでなく、福利厚生、休暇、柔軟な働き方、能力開発の機会など、従業員が受け取る待遇全体を分かりやすく整理する
 

ワークスタイル
出社頻度や勤務方法、マネージャーの役割などを含め、ハイブリッドワークのルールを明確にする
 

業務量の見直し
業務が集中している部署・ポジションを把握し、会議の進め方や勤務時間外の連絡について、チームとしてのルールを整える
 

マネージャーのマネジメント力
定期的な1on1やコミュニケーション、明確な目標設定、継続的なフィードバックなど、マネージャーの日常的なマネジメントを強化する
 

スキルとキャリア形成
どのようなスキルを身につければ次のポジションにつながるのかを明確にし、社内異動などのキャリア機会も見える化する
 

離職リスクの高いポジションへの対策
転職サイトなどを継続的にチェックしている人が多いポジションや、人材流動性の高いポジションを把握し、重点的な定着施策を行う
 

採用時の情報を明確にする
仕事内容、キャリアパス、柔軟な働き方の条件などを採用時点で明確に伝え、入社後とのギャップを減らす
 

今回の調査結果を踏まえるなら、特に早く取り組みたいポイントは「業務量」と「マネージャーのマネジメント力」です。

この2つは、従業員から寄せられた声と直接結びついている一方で、給与の見直しなどと比べて後回しになりやすい項目でもあります。


5. 施策の効果をどのように確認する?

人材定着の施策は、実施するだけで終わらせるのではなく、その効果を継続的に確認することも重要です。

今回の調査では、以下のような指標が推奨されています。

・内定承諾率、内定辞退の主な理由
・部署・ポジション別の離職状況
・社内異動の割合と、異動までにかかる期間
・ハイブリッドワークのルールがどの程度守られているか、マネージャーによる運用にばらつきがないか
・研修への参加状況と、実際のスキル向上
・従業員の定期的な意識調査における、業務量への負担感、燃え尽きのリスク、自信、上司からのサポートなど

「施策を実施したから効果があるはず」と考えるのではなく、数字や従業員の声を定期的に確認することが大切です。


6. 積極的に転職活動をしていない従業員にも、定着施策は必要



「今、転職活動をしていないから大丈夫」とは限りません。

今回の調査では、積極的に応募していなくても求人をチェックしている人がいることが分かっています。

そのため、人材定着の取り組みは、退職の意思を示した従業員への対応だけではなく、まだ退職を決めていない従業員が「この会社で働き続けたい」と思える環境をつくることも重要です。

特に、マネージャーとの関係や日々の業務量は、従業員が会社を評価するうえで継続的に影響する要素といえます。

 

7. でも、給与の見直しも忘れずに

ここまで読むと、「給与よりも業務量やマネージャーのほうが重要なのでは?」と思われるかもしれませんが、給与が重要ではないということではありません。

実際に、前述の90日間の優先アクションでも「給与・報酬」は最初の項目として挙げています。

重要なのは、給与だけでは人材定着の問題をすべて解決できないということです。

給与水準が市場と合っているかを確認すると同時に、「仕事量は適切か」「上司から適切なサポートを受けられているか」「キャリアアップの道筋が見えているか」「柔軟な働き方ができるか」といった複数の要素を合わせて考える必要があると言えるでしょう。


8. 最後に



今回の『Beyond the Paycheque: Singapore Employee Sentiment Study 2026』から見えてくるのは、給与が依然として重要である一方、従業員が長く働き続けられる環境そのものが、人材定着において重要な意味を持っている、という点です。

人材定着というと、給与改定や福利厚生の拡充など、大きな制度を思い浮かべるかもしれません。

しかし、今回の調査結果は、日々の仕事の進め方や上司とのコミュニケーションといった、より身近な部分にも目を向ける必要があることを示しています。

採用競争が続く中、企業にとって重要なのは「採用すること」だけではありません。

採用した人材が、長く安心して働き、成長できる環境をどうつくるか―

2026年の人材戦略を考えるうえで、この視点がますます重要になっています。


【調査概要】

本記事は、Reeracoen SingaporeとRakuten Insightが実施した『Beyond the Paycheque: Singapore Employee Sentiment Study 2026』の調査結果をもとに作成しています。

調査結果は、シンガポールにおける従業員の意識や傾向を理解するための参考情報であり、将来の行動や結果を断定・予測するものではありません。

採用・人材戦略を検討する際には、自社の状況や従業員の声などとあわせてご活用ください。

 

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