職場差別に関する調査・2023年度版結果 減少が見られるも、更なる改善を期待
こんにちは!
リーラコーエン シンガポール リサーチャーのShihoです。
多民族・多宗教社会であり、多様なバックグラウンドをもつ人材が集まるシンガポールにおいて、労働の現場においての差別的行為は非常に重く捉えられています。
シンガポールの労働力・労働市場の状況に関する統計と分析を行うMOM傘下の組織「労働力調査統計局 (The Manpower Research and Statistics Department - MRSD)」は、職場における差別の蔓延状況の追跡調査を定期的に行っています。
2023年版の結果が先日発表されたので、今回はその結果と内容・考察についてご紹介してまいります。
【目次】
1. 「公正な雇用慣行に関する補足調査」概要
2. 職場における差別の2023年調査結果
3. 求職活動における差別の2023年調査結果
4. 差別のない職場作りに、企業に求められるもの
5. 最後に
1. 「公正な雇用慣行に関する補足調査」概要
シンガポール居住者の職場差別の実態を測るためにMRDSが定期的に行う調査「公正な雇用慣行に関する補足調査」。
2023年7月3日~2023年9月18日の約2ヶ月間で行われた調査の結果が、先日発表されました。
対象者は年齢(15歳以上の労働者)、性別、労働力状況などの特徴からセグメントされた中で無作為に抽出された計4,090人のうち、3,480人(85.0%)が調査に回答しています。
調査では、2022年7月1日~2023年6月30日の12ヶ月間に従業員として働いている間、あるいは求職活動中に差別を経験したかどうかを尋ねられます。
また、職場差別を管理するための正式な手順が所属組織にあるかどうか、差別を経験した後に取った行動についても尋ねるものとなっています。
それでは以下、結果を見ていきましょう。
2. 職場における差別の2023年調査結果
(図: Supplementary Survey on Fair Employment Practices, Manpower Research & Statistics Department, MOM参照)
職場で差別を経験した労働者の割合は、2022年の8.2%、2021年の8.5%から、2023年には6.0%に減少しました。
顕著なのは、2023年は、パンデミック以前の2018年の数値(24.1%)と比べると4分の1以下となっており、MOMやシンガポール国家経営者連盟(SNEF)、全国労働組合会議(NTUC)といったThe Tripartite Alliance for Fair and Progressive Employment Practices(TAFEP)による、公正で進歩的な雇用慣行を築くための努力の結果だと評しています。
今回報告された職場での差別の部類で最も多かったのは年齢差別(2.6%)でした。
次いで人種(1.7%)、国籍(1.6%)、メンタルヘルス(1.6%)と続きました。
2022年の調査結果ではメンタルヘルスが4.7%と最も多かったものの、2023年では全ての差別の部類にて数値の減少が見られました。
ちなみに、上記の他には家族関係、性別、障害、宗教などが数値は低いながらも項目として挙げられています。
職場における不当な扱いとしては、数値が高かったものから順に挙げると給与(43.4%)、仕事量の配分(33.7%)、賞与(26.8%)、日常的なやりとり(26.8%)、キャリア開発(26.3%)、昇進(24.4%)、評価(22.9%)が20.0%以上のものとなりました。
これより以下の数値で、他には福利厚生、医療手当、年次有休、研修、解雇、再雇用も報告されています。
3. 求職活動における差別の2023年調査結果
(図: Supplementary Survey on Fair Employment Practices, Manpower Research & Statistics Department, MOM参照)
求職活動中に差別に直面したという求職者の割合は、2022年の23.8%から23.4%へとわずかに減少しています。
また、2018年の42.7%より格段に低く、ここでもシンガポール政府の努力の結果が見られます。
差別の形態で最も多かったのは年齢(18.1%)、次いで人種(5.1%)、国籍(4.8%)でした。
2023年は2022年に比べてすべての形態の差別が減少しているものの、年齢差別と国籍差別だけは2023年に初めて増加している点が懸念として課題が残されています(年齢:16.6→18.1%、国籍:4.0→4.8%)。
求職者が経験した差別の最も一般的なものとしては、「特定の特徴を持つ応募者を優先すると記載された求人広告」(45.7%)でした。
次いで「雇用主が仕事と無関係な個人情報の開示を求めた(28.3%)」、「特性によって不採用にされた(28.3%)」でした。
他にも「雇用主が面接時に特定の属性について軽蔑的な発言をした(15.2%)」「雇用主が個人属性による特徴から、応募した職務よりも小さな職務を提供した(8.2%)」が報告されています。
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4. 差別のない職場作りに、企業に求められるもの
(図: Supplementary Survey on Fair Employment Practices, Manpower Research & Statistics Department, MOM参照)
シンガポールで職場差別を根絶するためには、政府の努力だけでなく企業の協力が不可欠です。
そのために、差別が発生した時にそれを適切に処理するためのプロセスを明確に定めておく必要があります。
2023年の調査結果では、アンケート回答者の63.2%が、職場差別を管理するための正式な手続きを持つ企業で働いている、ということが確認されています。
この割合は2018年の49.6%から着実に上昇しており、職場の公正さの更なる改善への前進が見られます。
ただ一方で、職場での差別に対処するための正式な手続きが整備されているにも関わらず、差別発生時に声を上げられなかった労働者が多くいるという事実も浮き彫りになっています。
今回の結果では職場で差別に直面した従業員の29.3%が助けを求めているという数値が出ており、2022年(35.3%)より減少してはいるものの、依然残りの約7割は心に秘めています。
こういった人々が助けを求めなかった最大の理由としては「職場で疎外されたり、職場の人間関係が気まずくなったりすることへの恐れ(24.4%)」があります。
次いで「職業上のキャリアや将来の仕事の機会への影響への恐れ(18.2%)」「過去の事例から経営陣が行動を起こしたり、事件を公平に処理したりすることへの信頼が欠如していた(13.6%)」「調査結果が満足のいくものにならない可能性がある(13.1%)」があり、制度はあっても運用がなされていることへの信頼感の不足が根底にあるようです。
シンガポールの職場公正法(Workplace Fairness Legislation}では、被害者は告発の報復行為から保護されています。
ただ、実態として法が介入しにくい人間関係がある以上、職場差別に関するデータの透明性の向上や差別的慣行に対する毅然とした態度、過ちを起こした雇用主に対する措置の制定などが、各企業の努力として必要だと締めくくっています。
5. 最後に
今回はシンガポールの労働現場における差別について、シンガポール政府が毎年行っている調査から結果と概要をお届けしました。
全体的には例年と比較しても数値上で改善が見られており、シンガポール政府と協力する立場にある企業、そしてそこで働く人々の不断の努力が感じられる結果となりました。
結果の詳細はこちらからもご覧になれます。
私たち企業人も、偏見・差別をなくすよう日々の心がけが大切ですね。
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※過去記事における情報は、記事公開当時に基づく情報です。ご注意ください
職場や求職時における「差別」について【MOM調査結果】(2023年8月)
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