2024年シンガポールの名目賃金 引き続き緩やかな上昇傾向に〜2025年は鈍化の兆し〜

こんにちは。

リーラコーエンシンガポール マーケティング担当の野上です。

シンガポール人材開発省(以降MOM)は、先の5月28日に2024年の民間企業の賃金動向に関するレポートを発表し、2024年の名目賃金が前年比5.6%の上昇率だったことを発表しました。

これは前年の5.2%をわずかに上回る結果です。

MOMは、「調査対象企業の約8割が黒字経営を達成する中、多くの企業が従業員への賃金引き上げを実施し、インフレ率の低下と相まって実質賃金の伸びも大きく改善された」とした一方で、地政学的リスクや世界貿易の不透明感を背景に、2025年に向けた企業の賃上げ意欲はやや慎重な姿勢に転じつつあるとしています。

本記事では、本レポートの内容について、詳しく解説してまいります。

【目次】
1.名目・実質賃金ともに上昇、特に実質賃金が回復
2.業績反映の賃上げ、先行きには慎重姿勢も
3.すべての業種・職階で賃金上昇、ただし差も明確に
4.今後の展望
5.最後に


1.名目・実質賃金ともに上昇、特に実質賃金が回復

2024年の名目総賃金(CPF拠出金を含む)は、前年比5.6%の増加となり、前年の5.2%からやや上昇しました。

コロナ禍直後の2022年には6.5%と過去13年間で最も高い伸びを記録しましたが、それに次ぐ高水準であり、近年の中では比較的堅調な賃金上昇といえます。


一方、2024年の消費者物価指数(CPI)の上昇率は2.4%にとどまり、前年の4.8%から大きく減速しました。

このインフレの落ち着きにより、名目賃金の上昇がそのまま実質的な購買力の回復につながり、名目賃金からインフレの影響を差し引いた実質賃金の上昇率は3.2%と、2019年の水準以来5年ぶりの高水準となりました。


2.業績反映の賃上げ、先行きには慎重姿勢も

2024年に賃金を引き上げた企業の割合は78.3%に達し、前年の65.6%から大きく上昇しました。

一方で、賃金を引き下げた企業の割合は6.5%から3.2%へと半減し、全体として賃金改善の動きが広がった形です。


ただし、この賃上げの背景には、過去の業績を反映した対応が多く、将来の成長に対する確信や見通しに基づいたものではないとの指摘もあります。

MOMは、世界的な貿易摩擦の影響が懸念されている状況下で2025年の賃上げについては慎重な見方を示しています。

特に、貿易への依存度が高い製造業や卸売業では、黒字経営の企業の割合が約1割程度縮小する可能性があると見込んでいます。



3.すべての業種・職階で賃金上昇、ただし差も明確に

 

2024年は、14の主要業種すべてで名目賃金が前年比で上昇しましたが、その上昇幅には大きな差が見られました。
 

業種別名目賃金の上昇率(%)

業種

2023年 2024年
総務管理・支援サービス 7.1 8.7
金融サービス 7.6 6.7
コミュニティ・社会/個人サービス 5.0 5.7
ホテル 8.0 5.5
小売 5.6 5.5
運輸 4.9 5.5
建設 4.2 5.5
専門サービス 5.1 5.3
不動産 8.0 5.3
情報通信 6.2 5.1
製造 4.0 5.1
保険サービス 4.4 4.9
飲食サービス 4.9 4.8
卸売り 4.1 4.2
全体(TOTAL) 5.2 5.6


最も高い伸びを示したのは「総務管理・支援サービス」で8.7%、次いで「金融サービス」が6.7%、「コミュニティー・社会・個人サービス」が5.7%と平均を上回りました。

これに対し、「飲食サービス」(4.8%)や「製造業」(5.1%)、「卸売業」(4.2%)は平均を下回る伸びに留まりました。


職階別では一般従業員の伸びが最も高く

職階別に見ると、一般従業員(Rank-and-File)が最も高い5.8%の賃上げを記録し、次いで若手管理職(Junior Management)が5.6%、上級管理職(Senior Management)が5.1%となっています。

MOMは、これには生活費の上昇に対応するための政策や、就労ビザ発給に関わる「内国人算定給与(Local Qualifying Salary)」の引き上げ、そして低所得層の賃金を段階的に底上げする「賃金改善モデル(Progressive Wage Model)」の導入が大きく影響していると見ています。


フレキシブル賃金制度(FWS)の導入は依然として限定的

政府は、企業の変動費管理と労働市場の柔軟性向上を目的に賃金の柔軟な調整を可能にする「フレキシブル賃金制度(Flexible Wage System, FWS)」の普及を推進していますが、2024年時点でFWSを完全導入している企業は全体の8.5%にとどまっています。

少なくとも一つの要素を導入している企業は76.0%に達していますが、制度の普及はまだ道半ばといえます。

MOMは、同レポート内で「経済の変動に迅速に対応できるよう、より多くの企業がFWSを導入することを推奨する」としています。


4.今後の展望

2025年の賃金動向については、MOMは「不透明な世界情勢や地政学的リスクが企業の景況感に影響を与えている」とし、慎重な姿勢を見せています。

同省の2025年1~3月期調査によると、今後3カ月以内に賃上げを予定している企業の割合は22%と、前年末の32%から大幅に減少しています。

特に製造業や卸売業など、世界の貿易環境に左右されやすい産業では、賃金の伸びが鈍化する可能性が指摘されています。


シンガポール国家賃金評議会(National Wages Council)は、生産性の向上に見合った賃上げを行うよう呼びかけるとともに、従業員の貢献に見合った適切な処遇の実施を呼びかけています。

また、経済環境の変化に対応するため、フレキシブルな賃金体系の導入や、政府支援制度の活用を積極的に推進する方針です。

同レポートでMOMは、「賃金構造の柔軟性を高めることにより、景気後退時には人件費を抑えつつ雇用を維持し、好景気時には成果に応じた報酬を可能にする制度設計が重要だ」としました。


一方で、この流れは優秀な人材が企業をより厳選することにつながります。

給与面だけでなく、キャリア成長の機会や職場文化、やりがいのあるリーダーシップなど、総合的な魅力がこれまで以上に重要になってくるでしょう。

 

5.最後に

今回は、先日MOMがリリースをした賃金動向に関するレポートの内容を詳しくご紹介しました。

2024年のシンガポールでは、経済回復の恩恵を受けて名目・実質ともに賃金が上昇し、多くの企業が従業員への還元を実施した流れが垣間見られました。

しかしその一方で、地政学的リスクや貿易環境の不透明感が漂う中、2025年以降の賃金上昇には慎重な見方が強まりつつあります。

MOMは、同レポートを「政府・企業・労働者の三者が協力し、生産性向上と柔軟な制度導入を通じて、持続可能な賃金成長と経済の強靭性を追求していくことが求められる」と締めくくっています。

弊社としても、今年、来年に向けての動向を引き続き注視していきたいと思います。

今回のレポートについて、より詳しくはMOMのウェブサイトに掲載されている「賃金慣行に関する報告書2024」をご参照ください。
 

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